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広島地方裁判所 昭和55年(ワ)159号 判決

原告 全国金属労働組合広島地方本部東洋シート支部

被告 株式会社東洋シート 外一名

主文

一  原告と被告らの間において、別紙組合員目録記載の者のうち番号1ないし41の四一名が原告の組合員たる地位を有することを確認する。

二  被告株式会社東洋シートは原告に対し、

1  金五三二万九五七一円及びこれに対する昭和五七年七月一五日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を、

2  昭和五七年六月から昭和五八年五月まで、毎月二五日限り、金一四万二六九〇円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を各支払え。

三  被告東洋シート労働組合は原告に対し、金二六三万三七六〇円及びこれに対する昭和五七年七月一五日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告の被告らに対するその余の各請求を棄却する。

五  訴訟費用はこれを四分し、その一を原告の、その三を被告らの負担とする。

六  この判決中、二項については原告が被告株式会社東洋シートに対して金二〇〇万円の担保を、三項については原告が被告東洋シート労働組合に対して金八〇万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告と被告らの間において、別紙組合員目録記載の者のうち番号1ないし42の四二名が原告の組合員たる地位を有することを確認する。

2  被告らは、原告に対し各自五三三万〇五八〇円及びこれに対する昭和五七年七月一五日から年五分の割合による金員を支払え。

3  被告株式会社東洋シートは、原告に対し、昭和五六年六月から毎月二五日限り一四万六七一〇円及びこれに対する各支払期日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告らの負担とする。

5  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の答弁

(一) 被告株式会社東洋シート

(1)  本件各訴を却下する。

(2)  訴訟費用は一色邦男の負担とする。

(二) 被告東洋シート労働組合

(1)  本件各訴を却下する。

(2)  訴訟費用は原告または一色邦男の負担とする。

2  本案の答弁(被告両名)

(一) 原告の請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 被告株式会社東洋シート(以下、「被告会社」という。)は、本社及び工場を広島県安芸郡海田町東海田五五八七番地におき、兵庫県伊丹市にも伊丹工場を有し、乗用車用シート等の製造販売を業とする会社である。

(二) 被告会社の従業員で組織され、かつ総評全国金属労働組合(以下、「全金」という。)の組合員をもつて組織される全金の下部組合として、従前の名称「全金兵庫地方本部東洋シート支部」と称した労働組合(以下、「旧名称組合」という。)があり、前記工場単位で分会を有していた。

(三) 原告(以下、「原告組合」ともいう。)は旧名称組合と同一性を有する組合であり、被告東洋シート労働組合(以下、「被告組合」という。)は、旧名称組合の脱退者らで組織された労働組合である。

2  チエツク・オフ協定

被告会社は、昭和四〇年ころ、旧名称組合との間で、旧名称組合の組合員の賃金から、組合費として各組合員の当月支給総額の一・五パーセント及び闘争積立金として各組合員一人一か月一〇〇〇円を控除のうえ、当月二〇日締めにて同月二五日に旧名称組合に支払う旨のチエツク・オフ協定を締結した。

3  被告組合成立の経緯

(一) 被告らは、昭和五四年四月二〇日に旧名称組合執行委員会が、広島分会において臨時大会を招集し(以下、右臨時大会を「本件大会」という。)、全金脱退(組織脱退)決議(以下、「本件決議」という。)がなされた旨主張する。

(二) しかしながら、本件大会及び本件決議は、次のとおりその方法及び内容とも全金規約、旧名称組合規約等に違反しており、不成立若しくは無効なものである。

(1)  告示期間不遵守

旧名称組合規約一二条に、「大会を招集するには、一週間前までに、議題その他必要な事項を組合員に告示しなければならない。但し、緊急止むを得ない場合はこの限りでない。」と規定しているのに、本件大会は、一週間前までに、議題その他必要な事項を組合員に告示せずに招集された。なお被告主張の事由をもつてしては、同条但書の緊急性を充足しない。

(2)  出席組合員数の不明確

大会は組合員の三分の二以上の出席によつて成立する(前記規約九条)ところ、本件大会においては、成立時から終了時まで、果して何名の組合員が出席したか、全く不明であるうえ、成立時における資格審査も、出席人数を告げただけで、どのように確認したかも不明である。

(3)  議事提案の不明確性

本件大会で吉田広島分会長が提案した議事は、「九〇数パーセントの人から全金脱退の署名簿の提出があつた。執行部としても、組合員の意思を尊重して全金脱退に賛成である。ついては、大会で確認決議したい」、「執行部としては、そういつた組合員の意思を尊重して、執行部としても賛成すると、このことについて大会にはかる」というものであり、これでは、何の議案について決議をするのか不明である。

(4)  採決方法の不当性

採決は、直接無記名投票又は挙手によつて行われるべきである(同規約九条六項)のに、本件大会においては、最初拍手採決をとり、次の挙手採決をとつたが、いずれについても、賛成者及び反対者の数を確認していない。その後起立採決をとつたが、それは一二時四〇分の予鈴のチヤイムの鳴つた後であり、大会に出席していた組合員は、各々立ち上がり職場に帰る準備を始めていた時であるので、組合員の起立は、賛成の意思によるものかどうか不明であるし、また起立者の数を確認していない。

(5)  全金規約違反

仮りに、本件決議内容の全金脱退(組織脱退)が提案され、決議が成立しているとしても、次のとおり全金規約に違反している。

イ 全金の組織形態

全金の組織形態について、全金規約第二条は、「綱領・規約に賛同する金属機械産業の労働者で構成する組織」であると規定している。

この意は、全金はいくつかの労働組合によつて組織されている、いわゆる労働組合の連合体(例えば、合化労連・鉄鋼労連の如く)ではなく、労働者個々人によつて組織されている単一労働組合であるということである。

そして、全金の内部組織構成として、中央本部、各県ごとの地方本部、企業・地域ごとの支部を設けているが、これらは、全金という単一組織の中の運営単位である。従つて、支部あるいは地方本部という組織は、全金という組織から独立したものでは決してない。

ロ 全金加盟について

右の全金の性格から、全金への加盟方式は個人加盟であり、組織加盟のありえないことが必然的に導かれる。全金規約六二条は、「この組合に加入しようとする者は」と定めているが、この「者」の意義は、個々の労働者のことであり、現実にも組織加盟を認めた運営はなされていない。

なお、全金兵庫地方本部規約三三条の「労働者が個人または工場事業場もしくは地域単位に全国金属労働組合に加入しようとするときは」との規定は、労働者が集団的に加入する場合をただ注意的に規定したものと解釈すべきである。

ハ 全金脱退について

右と同様全金の性格及び規約上の解釈から、脱退するのは個々の組合員であつて、支部あるいは地方本部ごとの脱退は、論理的にも現実的にもありえない。

ニ 旧名称組合規約一一条七号について

旧名称組合規約一一条七号には「全国的組織をもつ団体への加入または脱退」が定められているが、これを本部規約と矛盾しないように解釈すると、右の全国的組織をもつ団体とは、全国的業種別労働組合の協議会や全国的な平和団体等の組織を意味することになり、全金はそこには含まれない。

(三) 前記(一)の事態を重視した全金兵庫地方本部(以下、「兵庫地本」という。)は、旧名称組合執行委員長山下稔ら執行部に対し、同年五月一日、六カ月間の権利停止処分に付し、同月四日、一色邦男を執行委員長代行に指名した。

そして、同月七日、右脱退決議に反対し全金にとどまる意思を明示した一一名の組合員らは、臨時大会を開き、執行委員長を一色邦男とする新執行委員を選任し、以後原告組合を維持運営して現在に至つている。

(四) 他方、山下ら旧執行部は、執行権を停止されているにも拘らず、五月九日広島工場で、同月一〇日伊丹工場において、それぞれ組合の名称を被告組合の名称に変更する旨の決議をなさしめた(賛成一四八・反対一一〇・無効一二・棄権一八)が、右は本件決議をすることに賛成した者が、旧名称組合を集団で脱退し、新たに被告組合を結成したものにほかならない。

4  従業員らの原告組合への復帰

別紙組合員目録記載の五八名の者らは、いずれも本件決議後は、被告組合より同組合の組合員として扱われていたが、遅くとも同目録の「被告会社通知日」、「被告組合通知日」又は「公表日」各欄記載の年月日までには原告組合に所属する意思を表示し、被告会社に対しては、同目録の「被告会社通知日」欄又は「公表日」欄記載の年月日に、被告組合に対しては、同目録の「被告組合通知日」欄又は「公表日」欄記載の年月日にその旨を通知した。

その後、被告会社から退職あるいは原告組合からの脱退等があつたため、現在原告組合の組合員は、同目録の番号1ないし42記載の四二名である。

しかるに、被告らは、右四二名の者が原告組合に所属することを争つている。

5  被告会社の債務不履行

被告会社は、本件決議後は、旧名称組合は消滅している旨主張し、昭和五四年四月分のチエツク・オフ金及び前記の原告組合へ復帰した者らの復帰後のチエツク・オフ金を原告組合に対し支払わず、被告組合に支払つている。

6  被告組合の不当利得

(一) 被告組合は、昭和五四年四月分のチエツク・オフ金締め日(同月二〇日)には未だ成立しておらず、同月分の組合費を受取る権限は何ら有せず、且つ右権限が無いことを知りながら、被告会社より同月分のチエツク・オフ金を受領した。

(二) 同じく、前記の原告組合へ復帰した者らについては、遅くとも復帰後は被告組合の組合員たる資格を失い、同人らのチエツク・オフ金を受領する権限を有せず、且つその旨を了知しながら、昭和五七年五月分まで、右チエツク・オフ金を各支払日に被告会社から受領してきている。

7  共同不法行為

(一) 被告会社は、被告組合と意を通じたうえ、資金源である組合費を絶つことにより、原告組合の組合活動を阻害する目的を持つて、原告組合に渡すべきチエツク・オフ金を被告組合に渡している。

(二) 被告組合は、右被告会社の原告組合崩しに加担し、被告会社における組合活動上の地位を有利にする目的で、右原告組合に渡すべきチエツク・オフ金を受領している。

8  組合費及び闘争積立金額等について

(一) 組合費について

(1)  昭和五四年四月分のチエツク・オフ金は、六五万一〇六〇円である。

(2)  原告組合所属組合員の昭和五四年五月から昭和五七年五月分までの各組合費は、別紙組合費明細表記載のとおりであつて、この総合計は、三〇〇万五五二〇円となる。

(3)  同じく昭和五七年六月分以降の予想される組合費は、同明細表No. 5及び6「6月以降予想額」欄記載金額であつて、この合計は毎月一〇万四七一〇円となる。

(二) 闘争積立金について

(1)  被告組合に違法に交付された闘争積立金は、別紙闘争積立金明細表のとおり合計一六七万四〇〇〇円である。

(2)  同じく各組合員の闘争積立金のうち、昭和五七年六月分以降の予想金額は、「6月以降予想額」欄記載のとおり毎月四万二〇〇〇円となる。

(三) 被告会社及び被告組合のこれまでの態度からみて、右(一)、(二)合計中の将来分についても、被告会社から被告組合に交付される可能性が高い。

9  よつて、原告は、被告らに対し、別紙組合員目録記載の番号1ないし42の者ら四二名が原告組合の組合員であることの確認を求めるとともに、被告会社に対し、チエツク・オフ協約または債務不履行もしくは不法行為による損害賠償請求権に基づき五三三万〇五八〇円及びこれに対する弁済期または不法行為の日の後である昭和五七年七月一五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払ならびにチエツク・オフ協約に基づき昭和五七年六月二五日以後毎月二五日限り一四万六七一〇円及びこれに対する各支払日の翌日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、被告組合に対し悪意の不当利得返還請求権または不法行為による損害賠償請求権に基づき五三三万〇五八〇円及びこれに対する不当利得の日または不法行為の日の後である昭和五七年七月一五日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による利息または遅延損害金の支払を求める。

二  被告らの本案前の主張

1  被告会社

(一) 原告組合の代表者と称する一色邦男は、適法な原告組合の代表者ではない。

すなわち、請求原因3(三)記載の一色選出手続は、次のとおりいずれも違法な行為の集積によるものである。

(1)  執行部に対する権利停止処分について

旧名称組合の役員である山下稔らについて、その執行者としての権利を停止するには、規約所定の制裁手続(大会又は委員会の議を経る必要がある。)による以外には法律上不可能なことであり、兵庫地本が一方的に権利停止処分にすることは、明らかに旧名称組合の自主性を侵害する行為であると同時に労組法を無視した違法な行為として無効である。

(2)  一色に対する執行委員長代行指名について

執行委員長代行の指名は、前記役員に対する権利停止処分が有効であることを前提とするから、右権利停止処分が無効である以上、一色を執行委員長代行に指名したことも無効である。

また、兵庫地本が旧名称組合の執行委員長代行を任命する行為自体も、組合役員選出につき組合員による直接無記名投票を要求する労働組合法五条二項五号に反し、旧名称組合員の意思を反映していないので無効である。

なお、原告が執行委員長代行任命の根拠とする全金規約一五条は「地方本部は機関を設け中央本部機関の諸決議及び指示に従い所属支部および組合員の指導統制を行う。」と定めるのみで右根拠となりえず、支部の執行部選出の権限は、全金規約(一三条、三五条等)自体で支部組合に完全に委譲している。

(3)  臨時大会の招集について

旧名称組合規約八条によれば大会の招集権者は執行委員長に限られているところ、前記のとおり一色が適法な招集権者でないことが明らかであるから、一色の招集した集会は適法な組合大会ではなく、この集会における決議も無効である。

なお、本件のように緊急事態が発生し、一色らが組合の臨時大会の招集が必要であると考えたとすれば、旧名称組合規約八条一号に規定する大会招集請求や同規約三〇条の役員解任請求等の手段によるべきであり、執行部がこれらの請求に応じなかつたとしても右請求権に基づき、支部委員長に対し民法四一四条二項但書により臨時大会の招集を命ずる本案または仮処分の裁判を得て支部大会を招集しそこで委員長らの不信任案を討議採決し、新委員長を選出すべきである。

また、仮に本件決議が無効と考えたなら法的に脱退決議無効確認の訴えを提訴しうるし、緊急の場合は、本件決議の効力停止仮処分の申請をなすことも法的に可能なのである。

さらに、仮に執行部が全員脱退して不存在であつたとしても、民法五六条の仮理事選任の制度を利用すべきである。

以上のような方法により、臨時大会の招集権者を選任できるのに、それらの手続を全く経ないで執行委員長代行に任命された一色は、法的に正当な招集権者でないことが明白である。

(4)  臨時大会における執行委員長選任決議について臨時大会において、一色を執行委員長に選任する旨の決議は、右大会の定足数の算定基礎となる組合員の確定もまともに行われておらず、また、労働組合法五条二項五号が役員選挙について直接無記名投票を要求し、旧名称組合選挙細則一条も選挙は直接無記名投票のみによることと定めているところ、右大会当日欠席した三名の者について委任状を用い、しかも選出の採決方法は挙手で行つている。従つて、右決議は、労働組合法五条二項五号及び支部選挙細則一条に違反しており無効である。

(二) 組合員たる地位の確認は、原告組合には訴の利益も当事者適格もない。

(1)  一般に、ある労働者が、ある労働組合の組合員であるとされるか否かは、当該組合が自主的に定める組合内部の問題であり、使用者が決める問題でない。従つて、原告が別紙組合員目録記載の労働者らを自己の組合員であるとし、このことを使用者たる被告会社に訴訟で確認を求めることは、組合自治の放棄であり、一種の矛盾であつて確認の利益が存しない。

(2)  また、組合員たる地位を有することの確認は、当該個人と組合との間で、組合員としての権利義務関係が直接争われている場合にのみ確認の利益が肯定されるものであるところ、本件は、右の場合には該当しないから、確認の利益がない。

(3)  組合員たる地位の確認は、組合員であると主張する個人が当事者として遂行すべき訴訟であり労働組合には当事者適格がない。

(4)  仮に、組合員の地位確認の訴を、組合員であると主張する個人が原告となつて遂行したとしても、使用者と組合員との間には、労働契約上の権利義務関係以外には、組合員としての固有の権利義務関係は存在しないから、被告会社を相手として訴を提起することは、確認の利益または即時確定の利益は認められない。従つて、組合が使用者に対し組合員の地位確認を求める場合には、より一層明らかに確認の利益ないし即時確定の利益または当事者適格が認められない。

(5)  組合費請求権を保護するためには端的に右請求権自体の確認を求めれば足り、組合員たる地位の確認を求めることが、本件組合費請求権を保護する最も有効適切な方法であるとはいえない。しかも、一般に、請求権につき給付の訴が可能である時は、請求権自体の確認の利益は認められず、抜本的解決をもたらす給付の訴を選ばなければならず、現に原告は、本訴によつて該請求権に基づく給付の訴をなしているから確認の利益がないことは明らかである。

(三) チエツク・オフ協定は、法的にみれば、組合費相当額の賃金について、各組合員が組合に対して受領権限を付与したものであるから、本件請求の趣旨第二、三項の金員請求は、各個人の未払賃金の債権行使に他ならないところ、一般に労働組合は組合員の賃金債権の行使について、当事者適格を有しないから、右請求についても原告組合は当事者適格を有しない。

2  被告組合

被告会社本案前の主張(一)と同旨の理由により、本訴は、当事者を適格に代表する者を欠くものとして却下すべきである。

三  被告らの本案前の主張に対する原告の反論

1  原告組合の執行委員長一色選出の有効性

(一) 山下ら旧執行部に対する兵庫地本の統制処分が無効であつたとしても、山下ら被処分者は、既に全金を脱退していたものであるから、右統制処分の無効は、その後の一色を代表者に選任する手続の効力には影響を与えない。

(二) 兵庫地本が昭和五四年五月四日一色を執行委員長代行に指名したのは、執行部全員が全金から脱退して、執行部が存在しないという異常な事態の生じた原告組合において、早急に執行部を選任してその体制を確立し、全金に残る組合員の団結を回復する必要に基づき、執行部を選任するための臨時大会の招集権だけを付与するためのものであり、全金規約一五条に規定する指導の範囲内である。また、組合大会の招集権者は、執行委員長に限られているが、その執行委員長が不在であるからこそ、執行委員長代行を選任して、これに臨時組合大会を招集させたものである。

(三) なお、被告会社の主張する支部規約に規定する大会の招集請求、役員解任請求、民法四一四条二項但書による臨時大会を命ずる本案または仮処分の裁判を求めること、脱退決議無効確認の訴、大会決議効力停止の仮処分は、すでに執行部が存在しなくなつている本件においては無意味である。また、被告会社は、執行部全員が脱退した場合は民法五六条に規定する仮理事の選任手続によるべきであると主張するが、仮理事の制度は、財産的取引をする法人を前提として、法人の理事が欠けた場合、早急に補充ができないような事情があるとき、利害関係人の請求により選任されるものであつて、他の方法により適法に補充ができるような場合(本件では組合員全員臨時大会を開催して執行部を選任することに同意している。)には、必ずしも仮理事を選任しなければならないものではない。

2  組合員たる地位の確認について

(一) 他人間の権利又は法律関係を訴訟物とする場合でも、その権利関係の存否の確認により、被告に対する関係で原告の法律的地位の安定が得られるならば、その訴訟物についても訴の利益が認められるところ、本件の場合、別紙組合員目録記載者(以下、「五八名ら」という。)と原告組合との間では組合員資格につき何ら争いは存しないにも拘らず、被告会社が、これを争い、原告組合は、被告会社から五八名らの組合費の支給を受けえないのであるから、被告会社に対する関係において、五八名らが原告組合に所属することの確認が得られることにより、原告組合の組合費の支払いを求める法的地位は安定する(確認訴訟の有効性)。

また、原告組合にとつて、五八名らの組合員たる地位を有することを確認することが、労働協約又は不法行為に基づく組合費(又はその相当額)の支払いを求めるための必須前提要件であることから、本件地位確認は、被告会社が五八名らにつき組合員資格を争うことによつて侵害している原告組合の組合費請求権を保護する最も有効・適切な方法である。

従つて、本件地位確認の訴につき、訴の利益が存在することは明らかである。

なお、原告組合は、五八名らが自己の組合員である旨主張しているのであるから、被告会社が組合員であることを認めたとしても、これと何ら矛盾しない。又、民事訴訟は当事者間の相対的解決を目的とするものであるから、所属組合が自己の組合員ではない旨主張している者について、判決により対会社との関係では組合員たる地位が認められることは当然であつて、何ら矛盾はない。

(二) 確認の利益とは、当該当事者間の紛争を判決により解決する必要があるか、有効・適切に解決しうるかの判断であるから、確認の利益と当事者適格の有無とは表裏一体と解され、前者があるところには当然後者が肯定されるものであるところ、本件の場合、(一)で述べたとおり、確認の利益が認められるのであるから、当然に当事者適格も認められる。

又、本件訴訟は、原告組合が被告会社に対し独自に有する固有の権利関係(債務不履行又は不法行為)に基づく損害賠償請求の先決関係につき、確認を求めているものである。従つて、仮に個々の組合員が被告会社に対し組合員としての固有の権利関係を有しないとしても原告組合の確認の利益ないし当事者適格を否定する理由とは何らならない。

3  組合費の請求について

本訴請求の趣旨第2、第3項の請求は、前記のとおり、原告組合が独自に有する損害賠償請求であつて、組合員各人の請求を代行するものではない。

四  請求原因に対する認否

1  被告会社

(一) 請求原因1のうち(一)及び(二)の事実は認め、(三)の事実は否認する。

(二) 同2の事実は、被告会社が、昭和四〇年九月二〇日、旧名称組合とチエツク・オフ協定を締結したことは認めるが、その内容は争う。

(三) 同3のうち、(一)の事実は認め、(二)及び(三)の各事実は争う。なお、被告らの本案前の主張1(一)記載のとおり、一色を執行委員長に選任した手続は無効である。

(四) 同4の事実のうち、被告会社に対して原告主張のような通知があつたことは認めるが、その通知日は別紙組合員目録の被告会社主張日記載のとおりであり、その余は不知若しくは争う。

(五) 同5の事実(ただしその時期は昭和五五年一月までである)は認める。

(六) 同7(一)の事実は否認する。

(七) 同8のうち、(一)(1) は認めるがその余は争う。

2  被告組合

(一) 請求原因1のうち、(一)及び(二)の事実は認め、(三)の事実は否認する。なお原告組合は、旧名称組合を離脱した一色らにより、被告会社内に新たに作られた別の組織であり、被告組合が旧名称組合と同一性を有するものである。

(二) 同2の事実は認める。

(三) 同3のうち、(一)の事実は認め、(二)は争う。(三)の事実のうち、山下ら執行部に対し同年五月一日、六か月間の権利停止処分に付する旨の通知が到達したことは認めるが、その余は争う。(四)の事実のうち、その主張の日時、場所において、主張の決議がなされたことは認めるが、その余は争う。

(四) 同4のうち、被告組合に対する通知の事実は否認し、その余は知らない。

(五) 同6(一)、(二)のうち、被告組合が各チエツク・オフ金を各支給日に被告会社から受領してきていること(ただし、その時期は昭和五五年一月まで)は認めるが、その余は否認する。右受領しているのは、別紙組合員目録記載の者らが被告組合に所属する組合員であるためである。

(六) 同7のうち、(一)の事実は知らない。(二)の事実のうちチエツク・オフ金を受領してきていることは認めるが、その余は否認する。

(七) 同8の事実は不知若しくは争う。

五  被告らの主張

1  被告会社

(一) チエツク・オフ協定は、組合費相当額の賃金について、各組合員が組合に対して受領権限を付与したものであるから、組合は会社に対し、チエツク・オフ協定に基づく金員支払請求権を有しない。

(二) チエツク・オフ協定によつて使用者が負う義務の内容は、金銭債務ではなく、所属組合員の賃金より組合費相当額を控除し、組合に引渡すことを内容とする作為義務であり、強制執行の方法も、金銭執行の方式はとれず、非金銭執行の方式をとることになる。

従つて、原告がチエツク・オフ協約の履行として求める金員支払請求は、請求の趣旨自体失当である。

(三) 使用者がチエツク・オフの履行を怠つても、組合は、個々の組合費請求権を失つていないから、組合には組合費相当額の損害は生じておらず、その損害額は、最大限にみても、組合が自ら組合費を徴収するために要する費用と、使用者がチエツク・オフを怠つた時から、組合が実際に組合費を徴収するまでに喪失した金利分に限られる。

(四) 旧名称組合は、被告会社に対し昭和五四年四月二三日付書面で、「四月の組合大会において全金脱退の決議をなし、全金本部に右趣旨を通知したので、以後全金とは一切関係ない」旨通知してきた。そこで被告会社は、右通知の内容に特段の違法な点を見い出せなかつたので、旧組合との労働協約の効力につき混乱が生じないよう新名称組合(被告組合)との間に「全金脱退並びに組合の名称変更に伴い労使間の協定はいささかの変更もない。」旨記載された確認書を取り交わし、引き続き新名称組合(被告組合)に対しチエツク・オフの義務を履行して現在に至つている。

従つて、被告会社がチエツク・オフについて義務を負うのは、唯一被告組合に対してであり、原告組合に対してではない。

2  被告組合

(一) 被告組合には、全金に加盟している旧名称組合が唯一存在していたが、旧名称組合は、次のとおりの手続で全金から組織脱退した。

(1)  昭和五四年四月二〇日午前一〇時ころ、旧名称組合広島分会に対し、同分会に所属する組合員の九〇パーセント以上にあたる二九一名ないし二九二名の署名のある全金から脱退したい旨記載された署名簿が突然提出された。

(2)  そこで、同分会の執行部は、同日午前一〇時一五分ころ執行代議員会を開き、右署名簿に基づき同日午前一二時一五分から緊急臨時大会を開くことを決定した。右緊急臨時大会開催について、旧名称組合規約一一条に規定する一週間の告示期間を置かなかつたのは次の理由による。すなわち昭和五三年一二月以降、全金に対する批判が高まり、昭和五三年一二月ころから執行部の提案がことごとく通らなくなつており、このような背景の下に前記のように九〇パーセント以上の組合員が署名により全金脱退の意思を表明したので、組織の破壊や分裂のおそれがあり、組織維持のために一日でも早い大会決議による対策が不可避であることから、旧名称組合規約一一条但書の「緊急やむをえない場合」に該当すると、代議員全員一致で判断したためである。また、旧名称組合規約九条六号には、採決は無記名投票または挙手によつて行なうと定められているが、右代議員会において、九〇パーセント以上の者が、全金脱退を望んでいることは署名簿によつて明らかであるから、右規約に規定している採決方法ではない拍手による採決の方法でも十分決議しうるものと判断して、臨時大会の採決は拍手採決で行なうことも決定した。

(3)  右に基づき、同分会において、同日午前一二時二〇分ころから次のとおり本件大会が開かれ、本件決議がなされた。

イ 定足数

旧名称組合規約には、大会成立のための定足数は、組合員の三分の二以上の出席と定められているところ、本件大会には、同分会の組合員三一九名の三分の二以上である二一八名が出席した。

ロ 採決

本件大会においては、拍手採決と起立採決がなされたが、そのいずれにおいても旧名称組合規約一一条七号、九条七号において定められている全国的組織を持つ団体への加入または脱退に必要な出席者の三分の二を超える圧倒的多数者の賛成により全金脱退の議案が可決された。

なお、起立採決は、挙手よりも慎重かつ厳格な採決方法であることや当日直接無記名投票にすることは、用紙の用意がなく不可能であつたこと等からみて、起立採決をしたことは適法である。また、起立採決の際、賛成者の数を確認してはいないが、賛成者が圧倒的多数であつたため、反対者の数を確認したものであり、それで足りるというべきである。

(4)  同月二一日旧名称組合伊丹分会においても、臨時大会で全金からの脱退決議がなされた後、同日午後三時伊丹において、本部執行委員会は、旧名称組合規約一〇条六号に規定する上部及び外部団体への加盟及び脱退に該当するものとして、全金からの脱退を審議可決した。

(二) 全金からの組織脱退の有効性

(1)  全金組織及び旧名称組合の全金加盟の実態

旧名称組合は、昭和三八年一一月に全金に加盟したが、それ以前は東洋シート労働組合とよばれ、その前身は、大阪マツダ労働組合であり、企業内労働組合として発足したものである。

全金加盟の際の手続は、全国的組織をもつ労働団体への加入として、組合規約に従い、緊急やむを得ない場合の手続により、全金への団体加盟の決議(拍手による満場一致)のみによつて行なわれ、個人加盟の手続はなされなかつた。

また、全金加盟後に、全金に対して個々の組合員が個人加盟の申込書を提出したことや個々の組合員の氏名を届け出たことはなく、全金に納める組合費も実数の半分以下の人数分しか納めていないことを全金も承認していた。

また、旧名称組合は、全金に加盟後も、加盟前の労働組合規約表示の「東洋シート労働組合」という印判の上に「全国金属労働組合東洋シート支部」という印判を押して規約をそのまま承継して、独自の組合活動をしていた。

(2)  関係規約等の規定

イ 全金規約二条は、組合員の対象とする労働者の範囲を定めたのみの規定であり、同規約六二条にいう「者」という文言は、自然人に限られず、法人や法人格なき社団を含むと解するのが素直である。

ロ 兵庫地本規約三三条には「労働者が個人又は工場、事業場もしくは地域単位に全国金属労働組合に加入しようとするときは」との規定があり、個人加盟以外に団体加盟の方式も認めている。

ハ 旧名称組合規約には、全国的組織をもつ団体への加入又は脱退が組合大会付議事項として規定されている。

ニ 仮に、全金規約が組織脱退を認めない趣旨であり、全金規約八九条二項が「この規約は、地方本部及び支部の規約に優先する。」と定めているとしても、右規定は、旧名称組合が全金に加盟した当時には存在せず、また、労働組合法上自主的かつ独立の旧名称組合の承認もないので、右規定は、組合の既得権及び自主性を不当に侵害するものとして無効である。

ホ 憲法二八条に保障する団結権の内容としては、加入及び脱退の自由が保障されることを前提とするものであり、その前提を制限する規約は、それが個人の脱退であれ、組織の脱退であれ、憲法に反し、民法九〇条の公序規定にも反する。

六  原告組合の反論

1  チエツク・オフ協定とは、使用者が組合員に支払わなければならない賃金の中から組合費等を控除して直接組合に渡すことを約するものをいう。

2  使用者は、チエツク・オフ協定により、組合に対しては、組合員の組合費等については、誠実に支払う義務を負い、組合員に対しては、控除した金員を誠実に組合に支払い、他の用途に支出しない義務を負う。

3  また組合は、チエツク・オフ協定の存する場合、組合費については、会社から直接受け取るという明約または、黙約が存在し、組合員の帰責事由によつて支払を受けえない場合のみ、組合員個人に対し支払請求しうる。

4  従つて、使用者がその責に帰すべき事由により、組合に対し組合費を支払わず、第三者に支払つた場合、組合は、チエツク・オフ協定に基づき、未払金全額につき損害賠償請求しうる。

5  被告会社が控除した組合費相当額の金員について、組合員資格について争いがあり、いずれの組合に支払うべきか不明な場合には、右紛争が解決されるまでは自ら保管若しくは供託をすべきである。

しかるに被告会社は、右紛争のあることを知り、更には原告組合に復帰した者から被告会社に対してその旨の通知をし、また原告組合からも組合費の支払いを要求しているにもかかわらず、これらを全く無視し、被告組合に対して支払いを続けているのであるから、明らかに業務上横領背任行為というべきであつて、有効な弁済がなされたものとはいえない。

第三証拠関係〈省略〉

理由

第一本案前の主張について

一  法人の代表者につき争いがある場合であつても、法人の組織内において現に代表者とされている者が代表者として訴を提起することができるところ、弁論の全趣旨によれば原告組合内において一色は、原告組合執行委員長として原告組合の代表者であると認められている(なお、一色の選出の経過は後記第二の二3(二)認定のとおり)ことが明らかであるから、一色の代表権の存在を争つて本件訴の不適法をいう被告らの主張は失当である。

二  組合員たる地位の確認について

1  別紙組合員目録記載の者のうち番号1ないし42の四二名の者が原告組合の組合員であるか否かということは、原告組合と四二名の者との間の法律関係ではあるが、他面原告組合の被告らに対するチエツク・オフ金請求権または損害賠償請求権確定のための先決関係であるから、原告組合と被告らの間の法律上の利害関係の存在を認めることができる。また、原告の本件確認請求は、チエツク・オフ金請求権(または損害賠償請求権)自体の確認ではなく、チエツク・オフ協定その他各種協約に基づく請求権や不法行為に基づく損害賠償請求権等各種請求権発生の根拠となる法律関係の確認を求めているものであるから、原告の被告会社に対するチエツク・オフ金請求権(または損害賠償請求権)を保護するために有効かつ適切な方法ということができ、更に四二名の者が原告組合の組合員であることから生ずる原告の被告らに対する各種請求権に関する紛争に根本的解決を与えるものである。

従つて、本件確認請求に訴の利益を認めることができる。

なお、本件確認は、四二名の者が原告組合の組合員であるとする法律関係を原告組合と被告らの間でのみ確定するものであり、原告組合と四二名の者の間で直接に法律関係を確定するものではないから、被告らが、四二名の者を原告組合の組合員であると認める権原の有無は、本件確認の訴の妨げになるものではない。

2  本件確認請求においては、原告組合と四二名の者の間で組合員としての地位が争われているのではなく、原告が被告らに対する固有の法律上の利害関係に基づいて被告らに対し、原告自身に関する法律関係の確認を求めているものである。

3  右の次第で、本件組合員たる地位の確認を求める訴は適法なものというべきである。

三  原告の被告会社に対する金員請求は、チエツク・オフ協定または債務不履行もしくは不法行為による原告固有の権利に基づいて原告自身に対する給付を求めているものであるから、原告に当事者適格の存することは明らかである。

第二本案について

一  被告会社が、本社及び工場を広島県安芸郡海田町東海田五五八七番地におき、兵庫県伊丹市にも伊丹工場を有し、乗用車用シート等の製造販売を業とする会社であること、被告会社には少くとも昭和五四年四月二〇日ころまで、広島工場と伊丹工場に分会を有する旧名称組合が存在していたことは当事者間に争いがない。

二  旧名称組合と原告組合または被告組合との同一性

1  本件大会開催の有効性について

(一) いずれも原本の存在及び成立に争いのない甲第一〇五、第一〇六号証、丙第八号証、第一〇号証の一、二、成立に争いのない丙第一四号証の一、原告代表者一色邦男本人尋問(第一回)の結果によつて原本の存在及び成立の認められる甲第五号証、証人原田邦雄、同田中主税の各証言、原告代表者一色邦男本人尋問(第一、二回)の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の各事実を認めることができる。

(1)  旧名称組合は全金に加盟以後、その指導の下に組合活動を続けてきたが、経済情勢がきびしくなるに伴い、被告会社の経営も苦しくなり、昭和五三年には五〇余名の組合員が退社するに至つたこともあつて、組合員の間に、雇用の安定等のためには被告会社との協調も必要であるとの認識が高まり、全金からのストライキ指令に反対するといつた事態が生じる等全金の指導に対する不満を抱くようになり、ひいては、全金脱退の意見を持つ組合員が増加し、その動きが活発化していつた。そして、広島分会において、昭和五四年四月一八日、一九日の二日間にわたり、発起人七五名により「組合員の雇用安定と家族の将来を守るためには、全金を脱退し、新生東洋シート労働組合を作ることが最良の道と確信する。」旨記載した趣意書が配布されるとともに、「私たちは全金を脱退します。」等と記載された書面に署名を求める運動がすすめられた結果、二九一名ないし二九二名の組合員(当時の広島分会の組合員は三一九名)の署名が集められ、同月二〇日午前一〇時ころ、右署名簿が広島分会長吉田定雄に提出された。

(2)  右署名を受け取つた吉田分会長は、直ちに広島分会の執行委員会を開くとともに、伊丹の山下執行委員長とも連絡を取り、右執行委員会において協議した結果、執行部も組合員の意思を尊重して全金脱退に賛成するが、全金からの脱退は、旧名称組合規約により組合大会での三分の二以上の賛成が必要とされている「全国的な組織をもつ団体への加入もしくは脱退」に該当するので、臨時組合大会を開くこと及び大会開催のため、代議員会を開くことが決定された。

(3)  右決定に従い、同日午前一〇時一五分から広島分会の代議員会が開かれ、右代議員会では、臨時組合大会を同日昼休みに検査前広場で開催すること、採決は拍手で行なうこと及び大会開催は代議員が各職場で口頭で各組合員に連絡することが決定された。

(4)  右代議員会後、各代議員は臨時組合大会開催を各職場で組合員に連絡し、その結果同日昼休みの午後〇時二〇分までに、検査前広場に組合員が集合して、本件大会が開催され、本件決議がなされた。

(5)  なお、伊丹分会においても、三五名の組合員の署名(当時の伊丹分会の組合員は三九名)が集められ、同月二一日午前九時すぎ、右署名簿が山下執行委員長に提出されたので、副委員長、書記長と協議した結果、臨時大会を開催することとし、その旨を口頭により組合員に告げ、同日午後〇時一五分ころ社員食堂において臨時大会が開催され、広島分会と同内容の決議がなされた(以下、「本件大会」、「本件決議」は伊丹分会の右大会と右決議を含めて用いることもある)。

(二) 成立に争いのない甲第三号証によれば、旧名称組合規約一二条には大会を招集するには開催の一週間前までに議題その他必要な事項を組合員に告示しなければならないこと及び緊急やむを得ない場合はこの限りでないことを規定していることが認められる。

(三) 前記(一)認定の事実によれば、本件大会が右所定の一週間の告示期間を経なかつたことは明らかであるところ、被告らは、組合員の九〇パーセント以上の者の全金脱退の署名簿が提出されたため、旧名称組合が破壊や分裂するおそれが生じたので、組織維持のために緊急に本件大会を開催する必要があつたので、前記条項の但書に該当する旨主張する。

そして、前掲甲第一〇六号証、丙第八号証、第一〇号証の一、証人原田邦雄、同田中主税の各証言中には、右主張に副う供述記載及び供述部分がある。

しかしながら、若し、前記署名者全員が熟慮のうえこれをしたのであれば、たとえ一週間の告示期間の経過後でも容易に脱退決議を成立させうるのであるから、緊急性は否定される。

また、前記被告らの主張及び供述等の趣旨が、署名した組合員の意思がなお確固たるものではなく、一週間の告示期間を置くと、その間に前記署名者に対する働きかけ等により組織脱退賛成者が減少して脱退決議が不可能になるということであれば、それは、脱退賛成者側からみて、脱退という結論を得るための緊急必要性であつて、脱退自体の緊急必要性ではない。なおまた、早急に組織脱退決議をしても、それに反対の者(右決議後に考えを改めた者も含む)が、組織脱退した組合から離脱すれば、結局は従前と同様の者による組織の維持を図ることはできないこととなる。

以上要するに、前記認定事実の下においては、(組織)脱退の当否は別として、前記規約条項但書の緊急性を認めることはできない。

(四) なお、証人向山國一の証言によれば、旧名称組合が全金に加盟することの決議がなされた臨時大会の告示が、同大会開催当日の朝なされたことが認められるが、同証言によれば、右全金加入は、組合員の解雇問題をめぐつて、会社と交渉するために、全金の指導、助力が必要であるとの執行部の判断により打出されたものであり、右解雇問題を至急解決する必要があつたことが認められるので、右事例と本件大会とを同一に論じることはできない。

(五) 前記規約条項の設けられた趣旨は、大会における議題等を事前に組合員に周知させ、それについて十分熟慮、検討させる機会を与えるためのものと思料され、これに違背する本件大会の開催は重大な手続違背があるものとして無効と解するのが相当である。

2  本件決議の効力

そうすると、その余の点については判断するまでもなく、たとえ本件大会において、全金からの組織脱退決議がなされたとしても、その効力は生じない。

3  本件決議後の推移

成立に争いのない乙第三号証の三、いずれも官署作成部分については争いがなく、その余の部分については原告代表者一色邦男本人尋問(第一回)の結果により成立の認められる甲第六〇号証の一ないし九、前記1掲記の証拠を総合すると、次の事実を認めることができ、この認定に反する証拠はない。

(一) 本件決議後、旧名称組合の執行部は、昭和五四年四月二三日付で旧名称組合委員長山下稔の名義で兵庫地本執行委員長柳田勘次に対し、本件大会において全金を脱退することに決定したので通知する旨記載した書面を提出するとともに、旧名称組合を同一性をもつて引き継いでいるものとして、同年五月九日広島において、同月一〇日伊丹において、それぞれ、本件決議に賛同した者らによる臨時大会を開き、旧名称組合の名称を「東洋シート労働組合」に変更することや組合費の低減等組合規約を改正するとの決議をし、以後被告組合として組合活動を続けている。

(二) 他方、前記全金脱退通知を受け取つた兵庫地本執行委員長柳田勘次は、旧名称組合の執行委員長山下稔ら九名の役員に対し、昭和五四年五月一日付で、同日から六か月間組合員としてのすべての権利を停止する旨を記載した書面を送付するとともに、同月四日一色邦男に対し、旧名称組合の機能を回復するために、同人を執行委員長代行に任命する旨指示した。そこで一色は、同月七日朝被告会社広島工場の前等でビラを配布して、臨時大会の開催を知らせ、これにより、同日午後五時から、安芸教育会館において、全金に留まる意思の確認された一四名のうち一一名が出席して(残り三名は委任状を提出した)大会が開催され、挙手採決の結果出席者一一名の全員一致により一色を執行委員長に選任し、他の役員も選任し、旧名称組合は同人らによつて維持存続しているものとして組合活動を続けたが、伊丹工場に組合員がいなかつたこともあつて、同年六月一日の代議員会で旧名称組合の名称を「全国金属労働組合広島地方本部東洋シート支部」と変更することを決め、そのことは同年七月一日の大会で報告されて承認され、以後原告組合として組合活動を続けている。

4  総合判断

前記のように、本件決議はその効力は生じないが、前記1(一)認定の本件決議がなされるまでの経緯及び前記3(一)認定の本件決議後の推移を総合すると、本件決議に賛成した者は、たとえ個人としてでも、全金から脱退することを希望していたものと推認でき、執行部、さらには兵庫地本に対する通知も右趣旨を含んでいたものと認めることができ、従つて同人らは、個人として全金から集団的に脱退したものと認めることができ、被告組合はそれらの者によつて新たに組織されたものというべきである。

そして、執行部を含む大多数の組合員が組合から集団的に脱退したとしても、一部組合員がなお残存している以上旧名称組合は消滅したということはできないことは自明であり、前記3(二)認定の経緯によつて現に存続している原告組合は旧名称組合と同一体であると認めることができる。

三  前掲甲第三号証、成立に争いのない甲第四号証、いずれも証人田中敏宏(第一回)の証言により真正に成立したものと認められる乙第五、第六号証、同証人及び証人大橋義人(第二回の一部)の各証言、原告代表者本人尋問(第一回)の結果を総合すると、旧名称組合は、本件決議直前当時は、その組合規約で、組合費として各組合員の月収の一・五パーセント(プラス闘争積立金)を徴収することができる旨を定め、闘争積立金規定で、闘争積立金として広島分会は一〇〇〇円を徴収する旨を定めるとともに、被告会社との間で、被告会社は、各組合員の各月支給総額(社会保険、市民税、源泉税を控除する前の額)から残業手当と交通費を控除した額の一・五パーセントの割合による金員及び闘争積立金一〇〇〇円を当月二〇日締めにて同月二五日に旧名称組合に引渡す旨のいわゆるチエツク・オフ協定が締結されていたことが認められる。

証人大橋義人(第二回)の供述中には、右認定の各月支給総額から控除するものとして「その他手当A」をも加える旨の部分があるが、右供述部分は前掲証拠に対比して採用し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

四  右認定事実によると、旧名称組合の組合員は、受領すべき賃金のうち、右割合の組合費及び闘争積立金相当額については、被告会社がこれを控除することを認めるとともに、旧名称組合に対して、被告会社から直接これを受領すべき代理権を与え、被告会社は右のことを了承して、右受領代理権を有する旧名称組合に対してこれを支払う旨を約したものと解されるから、前記のように、旧名称組合と同一体とみられる原告組合は被告会社に対して、右相当額の金員請求権を有し、被告会社はこれを支払う義務があるというべきである。

五  いずれも成立に争いのない甲第一二七号証の一ないし三、第一二八号証の一ないし三、第一二九号証の一ないし三、いずれも証人大橋義人の証言により真正に成立したものと認められる甲第一二七号証ないし第一二九号証の各四、いずれも原告代表者本人尋問(第一回)の結果により真正に成立したものと認められる甲第六ないし第三五号証、第三七ないし第五五号証、第六九号証、第七一号証の二、第七八号証の二、第七九ないし第八七号証、いずれも弁論の全趣旨により成立の認められる甲第七〇号証、第七一号証の一、第七二号証の二、第七三号証の一、二、第七四ないし第七七号証、第七八号証の一ないし三、証人大橋義人(第一回)の証言、原告代表者本人尋問(第一回)の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、本件決議後遅くとも別紙組合員目録の会社通知日、被告組合通知日、公表日または被告会社主張日欄記載の日のうちの最も遅い日までに、同目録記載の五八名は、それぞれ原告組合の組合員になる意思を表示し、そのことが郵便やビラ等により被告会社及び被告組合に知らされたことが認められ、いずれも証人田中敏宏(第一回)の証言により成立の認められる乙第一一ないし第一三号証、成立に争いのない乙第一五号証、同証人及び証人大橋義人(第二回)の各証言、原告代表者本人尋問の結果によると、右五八名のうち、北山光夫が昭和五四年一〇月二〇日、杉野辰夫が昭和五五年四月一四日被告会社を退職し、藤原樹が同年一〇月二一日死亡し、三沢輝男が昭和五六年一一月ころ中島雅保が昭和五七年六月二〇日原告組合から脱退する等同目録の番号42ないし58の一七名の者が原告組合組合員の地位を失つたため、現在(口頭弁論終結の昭和五八年六月一日当時)は、同目録の番号1ないし41に記載の四一名の者が原告組合の組合員としての地位を有していることが認められる。

六  いずれも成立に争いのない乙第二五号証の一ないし三、第二六号証、第二七号証の一ないし七、証人大橋義人(第二回の一部)の証言に弁論の全趣旨を総合すると、前記三のチエツク・オフ協定の計算方法により算出した昭和五四年四月分の組合費の合計額は六五万一〇六〇円であること、前記五の組合員の同年五月分から昭和五七年五月分までの各月分の組合費額は左記に訂正以外は少なくとも別紙組合費明細表の該当欄記載の金額(ただし、左記の訂正に伴い、同表の小計、合計、累計金額は当然訂正となる)を下らず、その合計は三〇〇万四五一一円を下らないこと、同年六月分以降の毎月の組合費額は、少なくとも同表の該当欄記載の金額を下らず、各月ごとの合計が一〇万一六九〇円を下らないこと、同じく昭和五四年五月分から昭和五七年五月分までの各月の闘争積立金額は、別紙闘争積立金明細表の該当欄記載のとおりであり、その合計額が一六七万四〇〇〇円であること、同年六月分以降の毎月分の闘争積立金は、組合員目録の番号1ないし41の組合員についてそれぞれ一〇〇〇円であり、その合計額は四万一〇〇〇円であることが認められる。

証人大橋義人の供述(第二回)中、右認定以上の原告組合主張額に副う部分は前掲証拠に対して採用できず、他に右認定を左右し、更には右認定以上の額を認めるに足りる証拠はない。

氏名 訂正すべき年月日 訂正額(円)

片岡良武 昭和五七年一月分 二一一六

松田健二 同   年二月分 二二六三

小田洋治 同   年同月分 二一〇二

右によれば、昭和五四年四月から昭和五七年五月までの組合費及び闘争積立金の合計額は五三二万九五七一円となり、また同年六月分から本件口頭弁論終結日(昭和五八年六月一日)までに支払期限の到来する昭和五八年五月分までの各月の組合費と闘争積立金の合計は毎月一四万二六九〇円となることが明らかであるから、被告会社は原告組合に対し、右各金員を前記約定の期日に支払う義務があることとなる。

七  原告組合は被告会社に対し、本件口頭弁論終結後に期限の到来する組合費及び闘争積立金の支払いをも請求(将来の請求)するが、本件組合員たる地位確認の判決が確定した場合においても、被告会社が右支払いをしないであろうと認めるに足りる証拠はないので、右将来給付を求める請求部分は、予めこれを求める必要がないので理由がないというべきである。

八  以上の次第で、被告会社は原告組合に対し、前記六の金員を前記約定の期日に支払う義務があるところ、後記九のとおり被告会社は右原告組合に対して支払うべき金員の一部を被告組合に対して支払つている。しかし、およそ債権の準占有者に対する弁済が有効とされるためには弁済者が善意かつ無過失であることを要するところ、前記五の被告会社に対する通知の存在等を考えると、被告会社の被告組合に対する右支払いが善意、無過失であつたと認めることはできないから、右支払いによつて原告組合に対する弁済としての効力を認めることはできない。

九  被告組合に対する金員支払請求について

1  被告組合が、昭和五四年四月分の旧名称組合組合員に関する組合費及び闘争積立金及び同年五月分から昭和五五年一月分までの別紙組合員目録記載の者に関する組合費(闘争積立金を含む)を被告会社から受領したことは当事者間に争いがなく、同年二月分から一〇月分までの同様の組合費等を被告組合が受領したことは、成立に争いのない乙第八号証、証人田中敏宏(第一回)、同大橋義人(第一、二回)の各証言により認めることができる。その余の組合費について被告組合が受領した旨の主張はこれを認めるに足りる証拠がない。

2  前掲大橋証言と弁論の全趣旨によると、右被告組合が受領した額は、昭和五四年四月分が六五万一〇六〇円であり、同年五月から昭和五五年一〇月分までは別紙組合費明細表及び別紙闘争積立金明細表の同期間の欄に記載された額で、その合計は一九八万二七〇〇円であることが認められ、従つて、これら受領総合計は二六三万三七六〇円となる。

3  被告組合は、旧名称組合と同一性がないから昭和五四年四月分の旧名称組合が受領すべき組合費、闘争積立金を受領する権限を有しない。また別紙組合員目録記載の者が原告組合員となつた後は、被告組合は右の者に関する組合費を受領する権限のないことは明らかであり、これらはすべて原告組合が受領すべきものである。

従つて、被告組合が前記受領した合計二六三万三七六〇円は原告の損失において不当に利得したものであるから、被告組合は右金額を原告組合に返還すべき義務がある。

一〇  以上の次第で、原告組合の本訴各請求は、原告組合と被告両名との間において、別紙組合員目録記載の者のうち番号1ないし41の四一名の者が原告組合の組合員であることの確認を求め、被告会社に対し五三二万九五七一円及びこれに対する弁済期の後である昭和五七年七月一五日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金並びに昭和五七年六月から昭和五八年五月まで毎月二五日限り一四万二六九〇円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による金員の支払を求め、被告組合に対し二六三万三七六〇円及びこれに対する催告の日(その請求が記載された本件訴変更申立書が昭和五七年七月一四日被告組合に送達されたことは当裁判所に顕著である。)の翌日である同月一五日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 出嵜正清 加藤誠 大泉一夫)

別紙組合員目録〈省略〉

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